カスタムウォーター 2025summer
コーヒーの抽出に使う水へミネラルを加え、味わいを調整できるかを試した記録です。ここではカスタムウォーターそのものの解説よりも、何を用意し、どのように試し、どんな結果になったかをまとめます。
結論
- 水に含まれる成分を変えると、フレーバー、ボディ、酸の感じ方に明確な変化があった。
- 試した範囲では、硫酸マグネシウム(MgSO4)がフレーバーを強く感じさせる方向に働いた。
- 塩化物イオン(Cl−)は量が多くなると苦さが目立ち、調整の上限になった。
- 抽出前の水に成分を加えるだけでなく、抽出後のコーヒーに加えても味が変わった。以降は、条件をそろえやすい「後入れ」を中心に考えることにした。
目的
同じ豆・同じ抽出条件でも、水に含まれるイオンの組成を変えることで、味わいをどこまで調整できるのかを確かめる。あわせて、抽出前に加える方法と、抽出後のコーヒーに加える方法の違いも観察する。
やったこと
ベースとなる水を用意する
出発点をそろえるため、ミネラル分の少ない精製水・純水をベースにした。水道水のように成分が一定でない水では、加えた成分による変化を切り分けにくいためである。
成分ごとの水溶液を作る
以下の7種類の化合物を純水に溶かし、濃いめの水溶液として用意した。必要量をそのまま量り取るのではなく、水溶液を希釈する方法にして、コーヒースケールで扱える範囲に誤差を抑えた。
主に試した成分は次のとおり。
化合物 | 含まれる主なイオン | 試した目的 |
|---|---|---|
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3) | Na+ / HCO3− | 酸の調整 |
炭酸水素カリウム(KHCO3) | K+ / HCO3− | 甘さ・クリーンさ、酸の調整 |
塩化ナトリウム(NaCl) | Na+ / Cl− | ナトリウム・塩化物イオンの調整 |
塩化カリウム(KCl) | K+ / Cl− | カリウム・塩化物イオンの調整 |
塩化カルシウム(CaCl2) | Ca2+ / Cl− | ボディの調整 |
塩化マグネシウム(MgCl2) | Mg2+ / Cl− | マグネシウムと塩化物イオンの調整 |
硫酸マグネシウム(MgSO4) | Mg2+ / SO42− | フレーバーの調整 |
各水溶液と純水の混合量、計算した濃度、飲んだ印象を表に記録しながら、組成を少しずつ変えた。先行研究やSCAの推奨範囲を目安に、極端な濃度にならないようにした。
抽出して比較する
組成を変えた水でドリップし、複数人で飲み比べた。ひとりの印象だけで決めず、同じ組成で複数回抽出して、おいしいと感じるかを確認した。
レシピを記録する
観察できたこと
操作 | 観察した変化 | 判断 |
|---|---|---|
MgSO4を加える | フレーバーが強く、果実感が出やすくなった | 成功した組成にはほぼ必ず含まれていた |
Cl−を増やす | ボディは出るが、量が多いと苦さも目立った | 塩化物イオンの量が調整上の制約になった |
KHCO3を加える | 酸の強いコーヒーがまろやかになった | 酸を抑えたいときの選択肢になった |
NaCl・KClを加える | 今回の範囲では、積極的に残したい変化が得にくかった | 最終的な候補から外した |
特にMgSO4の影響はわかりやすく、これを外すとフレーバーの量感が落ちると感じた。一方で、ボディを出すために塩化物イオンを増やしすぎると苦さが目立つため、単に成分を足せばよいわけではなかった。
一番大きな発見:抽出後に入れても変わった
酸が強く出たコーヒーに、試しにNaHCO3の水溶液を加えたところ、酸が穏やかになった。さらにMgSO4も抽出後のコーヒーに加えてみると、フルーティーさが強く感じられた。
それまで成分はすべて「抽出する前の水」に加えていたため、抽出後に加えて同じように味が変わることは大きな発見だった。後から確認すると、この考え方はAPAX LABの発信や既存の研究とも整合していた。
結果から変えたこと
抽出前に水を作り込む方法は、沸騰・抽出という工程をまたぐため、条件をそろえるのが難しい。対して後入れなら、同じコーヒーを基準にして滴下量だけを変えられる。
この実験以降は、まず通常の水で抽出し、必要に応じて成分の水溶液を少量ずつ加える方法を次の検証対象にした。狙いは「抽出を変える」ことではなく、完成した一杯の酸・フレーバー・ボディを再現性よく調整することである。
限界と次にやること
今回の評価は官能評価が中心で、当時の記録も十分に細かく残せていない。そのため、ここで示したのは完成レシピではなく、次の検証につながる観察結果である。
- 後入れを前提に、豆ごとの適した組成と滴下量を記録する
- 同じ条件で複数回比較し、再現性を確認する
- 抽出前・抽出後の添加で、どの変化が共通し、どの変化が異なるかを分けて見る
- 先行研究を読み、官能評価と成分・抽出の関係を整理する